Word of the Year
日本版 2025 結果発表
日本発の英語表現のうち、社会をより良くする可能性をもつ言葉を選出しました
大賞
Grand Prize
Kintsugi
金継ぎ
「金継ぎ」は2024年にOEDに新語として追加された注目の単語である。壊れた陶器を金で修復する日本の伝統技法であり、「傷を隠すのではなく、美として昇華させる」という哲学が海外で高く評価されている。海外で体験会も開催されており、実践的な関心も高い。「もったいない」精神や「侘び寂び」に通じる日本的美意識を体現する概念として、現代のサステナビリティの文脈でも再評価されている。
入賞
Winners
Omakase
お任せ
「Omakase(お任せ)」は、寿司店・料亭など主に高級店で料理人に献立を一任するスタイルを指す日本語であり、近年英語圏で急速に認知度が上昇している。特にニューヨークやサンフランシスコなど感度の高い都市部において「Omakaseを食べに行く」ことが一種のステータスシンボルとなっている。「外国人の友人が『お任せで食べた』ことを自慢していた」というエピソードも紹介され、単なる注文方法を超えて「洗練された食体験」「本物の日本食を知っている」というアイデンティティの表明として機能していることが確認された。
Matcha
抹茶
「抹茶」は2024-2025年において世界的に最も話題となった日本語由来の食文化用語として選考委員から推薦された。特に「今年一番話題になった」との評価があった。単なる飲料としてだけでなく、茶道・禅といった日本の精神文化との関連性も付与でき、日本文化の奥深さを伝える単語として適切である。ポピュラリティは非常に高いものの、「普及しすぎている」という懸念も示された。
Ikigai
生きがい
「生きがい」は「生きる意味・目的」を意味する日本語で、世界的ベストセラー書籍の影響もあり国際的に広く認知されている。Google社の幹部が使用していたエピソードも紹介された。ただし、日本語本来の日常的なニュアンスと異なり、海外では「より壮大な人生哲学」として解釈されているとの指摘があった。意味の変容を含めて、日本語が世界に広まる際の興味深い現象を示している。
Mottainai
もったいない
「もったいない」は、無駄を惜しむ日本人の精神性を表す言葉で、ノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイ氏による国連での紹介で世界的に知られるようになった。環境保護の文脈での再評価として推薦された。SDGs時代において、サステナビリティの概念と親和性が高く、10年以上前から知られているものの、現代的意義を持って再注目されている日本語として評価された。
Iyashikei
癒し系
「癒し系」は、心を穏やかにする・癒すという日本独自の美学的概念を表す言葉である。日本では「ゆるキャラ」ブームの20年以上前から使われていたが、英語圏では後追いで"Healing"的な概念として受容されるようになった。アニメ・マンガのジャンルとしても確立しており、ストレス社会における心の安らぎを求める世界的トレンドと合致している。
Komorebi
木漏れ日
「木漏れ日」は、木々の葉の間から差し込む日光を意味する日本語で、英語には直訳できない概念として海外で注目されている。「当てはまる英語がない」という翻訳不可能性が話題を呼んだ。マインドフルネスの文脈で「自然の微細な美に意識を向ける」日本人の感性として評価されているとの指摘があった。日本語の繊細な自然表現が世界に発信された好例である。
Emoi
エモい
「エモい」は、感情を揺さぶられる・懐かしさや切なさを感じる状態を表す日本の若者言葉である。英語の"Emotional"を語源としながらも、日本独自のニュアンスを持って発展した。「懐かしい」に近い意味を持ちながら、より現代的で若者的な感覚を表現する言葉として、日本語の造語力と感性を示す好例である。
Kanban
カンバン
「カンバン」はトヨタ生産方式における生産管理手法として生まれ、現在ではソフトウェア開発のアジャイル手法として世界的に普及している。「プロジェクトマネージャーがよく使っている」との証言があり、製造業の枠を超えてIT業界でも標準的な用語となっている。日本発の経営手法が世界のビジネス言語となった代表例として高く評価された。
Shinrin-yoku
森林浴
「森林浴」は、森林の中を歩きながら心身の健康を回復させる日本発の健康法である。以前から海外の雑誌等で紹介されており、セラピーの一環として認知されている。自然との調和を重視する日本的価値観が、ストレス社会における癒しの手法として世界的に受容された例である。エビデンスに基づく健康効果も研究されており、科学と伝統の融合を示す概念として評価された。
Gyaru
ギャル
「ギャル」は2000年代の日本のストリートファッション文化を代表する言葉であり、現在は海外で「平成レトロ」として再評価されている。原宿でギャルファッション体験サービスがあり、TikTokでも人気コンテンツとなっている。「ファッションであり、スラングであり、哲学でもある」と評され、単なるファッションを超えた「ギャルマインド」(ポジティブで自由な精神性)として深い意味を持つ言葉として高く評価された。
選考委員総評
大杉正明
Masaaki Ohsugi
大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント
今回の大賞の選考は数量的データに基づくものではない。金継ぎのファンの数は世界中の抹茶ファンの数には遠く及ばないかもしれないが、金継ぎには日本人の美意識と技術が見事に凝縮されている。 傷ついたものや壊れたものを「元通りに」復元するのではなく、新たな美しさを見出し、「創造物」とするところに多くの外国人が惹かれたのではないか。 外国でも金継ぎ教室が開かれ、また技術を学ぶために来日する外国人も増えている。今回の大賞は、このように優れた日本文化に目を向けてほしいという、審査員諸氏の願いの表れでもあるように思える。
結果全体に対する「総評」
概観すると、予想された語はほぼ出揃った感がある。 Omakase(お任せ)は、日本の鮨屋、割烹あるいはフレンチの店などでお馴染みだが、海外でも拡がり始めている。 若い客が得意げにOmakaseの「kaか」にアクセントをおいて発音する場面に遭遇したことがある。 Ikigai(生きがい)は日本的な要素があり、翻訳しにくいが、Ikigaiとして静かに知識人を中心に浸透しつつあり、注目すべき語である。 Komorebi(木洩れ日)は翻訳や文学に親しんでいる人々にはよく知られた語だが、一般の外国人の間での認知度は高くないと思われる。 Mottaini(もったいない)やGyaru(ギャル)などは再評価されているとはいえ、新鮮味に欠けると言わざるを得ない。 今回入選した語は、どれも今後注目していきたい語である。
新崎隆子
Ryuko Shinzaki
大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント及び結果全体に対する「総評」
大賞の決定おめでとうございます。 大賞の「金継ぎ」は日本の誇るべき伝統工芸技術であり、ものを大切にする日本人の心にも通じる、大賞にふさわしい言葉です。 今回の第一回Word of the Year は、多岐にわたる分野からの応募があり、日本のことばが世界に広まるという夢を抱く多くの人々の熱意を感じました。 その年に流行した言葉にこだわると、アニメなどのエンターテインメントやSNSに取り上げられたものが多くなり、若者層に受ける言葉になりがちですが、 今回の大賞はすべての年代に支持され、一過性の流行にとどまらないものが選ばれて大変良かったと思います。 選考委員会の皆様のご努力に敬意を表します。
門田修平
Shuhei Kadota
大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント
OEDにも新語として入っている注目単語であるこの語は、私達人類に必要なsustainabiltyを代表する技であり、日本発のことばとしてWord of the Year日本版にふさわしい語であると思います。
結果全体に対する「総評」
大賞には入らなかったものの、Omakase(お任せ)は、近年英語圏、特に米国のニューヨークやサンフランシスコなどにおいて、高級和食店で料理人に献立を一任することが、ステータスシンボルとなっている語で私としては、「金継ぎ」に勝るとも劣らない印象をもっています。またその他の、 Matcha(抹茶) Ikigai(生きがい) Mottainai(もったいない) Iyashikei(癒し系) Komorebi(木漏れ日) Emoi(エモい) Kanban(カンバン) Shinrin-yoku(森林浴) Gyaru(ギャル) なども入賞したことは非常に喜ばしい限りです。
クルーク・アントニウス
Antonius Michael Klug
大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント
消費が速く、商品や人間関係の寿命が短いこの時代において、「金継ぎ」という言葉は、小さな傷を修復するだけでなく、不完全さの美しさや、大切なものに対して絶えず努力を続ける姿勢を尊重するという、素晴らしい哲学を表しています。このような考え方は、世界中に広まることが望ましいです。
結果全体に対する「総評」
今回の選考過程を通して、全体的に大変有意義で楽しい時間を過ごすことができました。 多くのカテゴリーから数多くの応募語が寄せられ、その中には特に言及に値するものが多数ありました。そのため、いくつかの言葉が入賞として発表されたことを大変喜ばしく思っております。 次回の選考においては、日本が現在関心を寄せているテーマをより深く知る手がかりとして、トップカテゴリーを3つ選出することも興味深い試みではないかと考えております。 多くのご応募に心より感謝申し上げますとともに、来年はさらに多くの方々にご参加いただけることを願っております。